親の介護や遺産相続の問題は、多くの家庭にとって避けられない課題です。
しかし、終活が十分に進められていないと、家族の関係に亀裂が生まれ、後悔が残ることもあります。
本記事では、筆者の友人Aさんの家庭で起こった相続トラブル体験をもとに、終活を早期に進める必要性と、その具体的な方法についてご紹介します。
《体験談》父親の認知症と終活を進められなかった後悔
Aさんの家族は、両親と長女・次女(Aさん)・長男の5人家族。
Aさんの父親は、少しずつ言動に変化が見られ、家族も異変に気づき始めました。家族は「今のうちに終活を始めよう」と父親と話し合おうとしました。
しかし、父親は「自分は大丈夫だ」と認知症の疑いを頑なに否定し、話し合いを拒みました。
また、家族もそれぞれ多忙なこともあり、心配もしつつも無理に話し合いの場を持つことなく過ごしてしまったそうです。
その結果、父親の認知症はどんどんと進行し、気が付けば通常の会話もままならない状態になってしまったそうです。
母と姉に集中した介護の負担
父親の介護は、同居していた母親とお姉さんに大きくのしかかりました。
徘徊により、見知らぬ家に侵入して警察沙汰になったり、歩いてどこかへ行ってしまい転倒してケガをすることも。
さらに、父親は透析が必要な状態にもかかわらず、通院を拒んで病院で暴れることがあり、対応に苦労したといいます。
一方、Aさんは実家と同じ県内に住んでいましたが、自営業を営み従業員も抱えていたため、仕事を減らして頻繁に実家に通うことはできませんでした。
また、子どもの受験期やコロナ禍も重なり、母親と姉が苦労しているのはわかっていたものの支援は限られたものになってしまいました。
それでもAさんは可能な範囲で支援を続け、母や姉の愚痴を聞いたり、旅行に連れて行ったりと少しでも精神的にも金銭的にも母親や姉の支えになろうと努力しました。
遠方に住む弟は、介護に一切関与しませんでした。
コロナ禍を理由に実家に来ることもなく、家族を心配して電話をかけてくることもなかったそうです。そのため、母親やお姉さんの介護の苦労を目の当たりにすることもなかったそうです。
父の他界と遺産相続の発生
介護生活の中、父親が他界。
そこで、まずはAさん、母親、お姉さんでは遺産相続の話し合いを始めました。
父親の財産は「家と土地、貯金、株式」
専業主婦だった母親の今後の生活を維持しなければなりません。
そのため、遺族年金と父親の財産が生活していかなければなりません。
贅沢はできないまでも、父親の財産があることで遺族年金にプラスして介護で苦労した母親が趣味や旅行を楽しみながら老後の生活をしていけるかなぁ、と言うぐらいの財産だったそうです。
母親・姉・Aさんの三人で協議し、次のような分配案に合意します。
・家と土地:母親が相続し、姉と同居を継続
・貯金と株式:母親の生活費や実家のメンテナンス費用に充て、介護をがんばってくれた姉に一部を分配
Aさんは、「介護を十分に手伝えなかった」という思いと母親の今後の生活や姉への感謝から「自分は何も相続しない」と決断します。
また、財産のほとんどが土地と家であったこともあり、介護を手伝わなかった弟もAさんと同様、分配しない方向で話がまとまりました。
母親もお姉さんも納得し家族間では円満に話し合いが進んだかのように思えました。
弟の主張による相続トラブル
ところが、遠方に住む弟が「法定相続分」を主張してきました。
介護には全く関与しなかったにもかかわらず、母親やお姉さんの介護での苦労もみることもなかったため法律に基づく権利を主張し、母親の今後の生活や姉の負担を考慮しない姿勢に家族は困惑してしまったそうです。
さらに弟は、自分の立場を強調し、法定相続分よりも多く分配して欲しいと主張してきました。弟の主張は次のような主張でした。
・自分は長男で名字を継いでいく
・子どもが3人いて生活が苦しい
・遠方のため孫を母親に見せるための交通費などの費用がかかる
母親・姉・Aさんは、弟に対して母親の今後の生活費や姉の介護負担は相当だったことを説明し、法定相続分の主張を見直すよう説得しました。
また、法事や夏休みなどで帰省する際は、母親が費用を負担するなど妥協案を提示したりもしました。
しかし、弟は一切譲歩しせず、なんとか話し合いの結果、最終的に法律に基づき「1/6」の相続分を受け取ったそうです。
Aさんは調停なども考えたそうですが、父親の介護や葬儀で疲弊していたこと、実の弟と争うことや調停の費用や時間を考えるとあまり前向きになれず弟の主張を受け入れてしまったそうです。あきらめた決定打は、父親の遺言書がなかったことだったそうです。
父親が亡くなって数年が経ちましたが、この相続トラブルで弟家族とは、わだかまりが残り絶縁状態になってしまっているそうです。
また、将来的に母親の生活資金が足りるのかどうかも不安があるそうです。
遺言書がもたらす相続トラブル回避の効果
Aさん一家のトラブルは避けることはできなかったのでしょうか。
Aさんの父親と弟は折り合い悪く、以前に「自分になにかあっても息子には何もあげない」と言っていたことがあったそうです。
Aさんは「もし父がまだ普通に会話ができている間に、そのことを遺言書を作成して残してくれたら、弟とのトラブルを避けられたかもしれない」と悔やんでいます。
遺言書があれば、母親の生活を支える財産配分もでき、弟に法廷相続分を主張されずにすんだはずです。
Aさんは、忙しさやめんどくささにかまけて、父親に遺言書を書いてもらわなかったのが失敗だったと後悔しています。
終活がもたらす家族への安心
Aさんの体験は、終活が「親のため」だけでなく、「家族全員の安心」のための準備であることを教えてくれます。
親が元気なうちに話し合いを進め、遺言や財産分配を明確にしておくことで、後悔や家族間のトラブルを避けることができます。
親の終活を進めるための具体的な方法
柔らかい話題から始める
「老後はどんなふうに過ごしたい?」といった会話から始めると、親も抵抗感を持たずに終活について考え始めることができます。
エンディングノートの活用
「全部を一度に決めなくてもいい」と伝え、少しずつエンディングノートを一緒に作成するのも効果的です。
遺言書の作成を促す
財産分配の希望を明確にすることで、相続トラブルを未然に防ぐことができます。
兄弟間での連携を強化する
兄弟がいる場合、介護の負担を公平に分担するのは難しいため、事前の話し合いが重要です。
また、家族構成や生活環境がかわると考え方も変わることがあります。
状況の変化に応じて定期的に見直すことも大切です。
相続トラブルはお金持ちだけの話!?
相続トラブルというとお金持ちの家で「一般家庭の我が家には関係ない」と思っている方は多いのではないでしょうか。
実際には相続財産が5千万円以下の家庭で多く発生しています。
家庭裁判所の2015年の調査によると、遺産分割調停事件のうち、32%が相続財産1,000万円以下、43%が1,000万円超5,000万円以下の事案になっています。
老後2千万円問題などと言われることもあり、老後のためにそれぐらいの財産を残している親御さんも多いのではないでしょうか。
また、不動産しか財産と言えるものがない場合、不動産はわけることは難しいため相続トラブルの一番の要因にもなります。
Aさんの場合も特別お金持ちというわけではなく、土地と家、今まで貯めたお金と退職金、株式などで1,000万円超5,000万円以下の事案となっています。
相続トラブルはけっして他人事ではありません。
まとめ:今だからこそ親と家族で未来を話し合おう
Aさんの体験から学べるのは、「親が認知症になる前」に終活を進めることの重要性です。
終活は、家族全員が納得できる未来を作るためのプロセスです。遺言書があれば、介護や相続に関するトラブルを防げます。
また、兄弟間での話し合いも重要です。
介護の負担や財産分配に関して、事前に合意を得ておくことで、後のトラブルを防ぎやすくなります。
忙しい日々の中で、終活の話を切り出すのは簡単ではありません。
しかし、「今がベストなタイミング」と思い、親や兄弟としっかりと未来について話し合ってみませんか?
家族全員が安心して暮らせるために、終活を始めるのは早ければ早いほど良いのです。
終活は、決して暗い話ではなく、親と家族のための未来への準備です。
家族全員が後悔のない選択をするために、終活や介護について話し合いましょう。
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